CRAYON BOOKの「概念形成」は、感覚刺激の経験を通じて、事象の共通性を思考によってとらえ、具体物を抽象化して学習するプロセスであると定義されています。つまり、これまでの経験を基にして「○○はこういうもの」だと物事を認識することです。
概念は、大昔に自然界の中ではとても弱い存在だった人間が、協力することで様々な環境に対処し生き残るために生み出したコミュニケーションの一部であると言われています。獲物と捕食者を見分けたり、数人で連携して捕獲したり、食べられるものとそうでないものを区別したり、成果を分け合ったりするときに、色や形、方向、味、匂い、数などの認識が合っている、つまり概念が形成されていることで他者とコミュニケーションを取ることができるようになるのです。
りんご
= 赤くて丸いもの
りんご
= ぼとって落ちるもの
りんご
= 落ちると危ないから頭を押さえる
りんご
= つるつるしてきれいなもの
りんご
= 落ちるときに3秒くらいかかる
● ● ●
乳幼児期に著しく発達する視覚機能に沿って、得られる情報からどのような概念が育まれているかを子どもの様子から観察する領域です。視覚とは、視力や視野、コントラスト感度、色覚、両眼視機能などの視機能の働きによる感覚のことであり、子どもが視覚を使って、経験することがたくさんあります。目が最も大きな発達を遂げるのは、最初の1年間ですが、子どもの目の発達はおよそ10歳ごろまで穏やかに発達していくと言われています。視覚から情報を受取ることが得意な子には、情報を与えるときに絵やカードなどの視覚的情報を補助的に使い、理解を深めることを意識します。
まるちゃん
● ● ●
聴覚から得られる情報から、特に音全般や音楽的な概念が育まれているかを子どもの様子から観察する領域です。聴覚とは、振動を感知して音を知る機能です。聴覚的な刺激を受けたとき、人はその音から大きく分けて「言葉」や「音楽」、「環境音」、「空間」を感知することで認知し、そして理解するとされています。音楽活動時の子どもの様子はもちろんですが、日常生活で聞こえる音への子どもの反応にも注目します。
せいらちゃん
● ● ●
触ったり、食べたり・嗅いだりするだりすることで感覚を通じて共通点や違いを感じ分けている子どもの様子から概念が育まれているかを観察します。触覚は皮膚感覚への刺激から、温度や痛み、かゆみ、触れたものの細やかな質感や特徴を伝えます。味覚は舌の味蕾によって甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つの基本の味を感じ分けることであり、嗅覚は空気中のにおい成分を鼻の内側の粘膜で感じることとされています。まだ言葉が出ていない子が感じている味覚や嗅覚を観察することは難しく思えるかもしれませんが、言葉かけをしながら表情の変化を観察します。
よしおくん
● ● ●
大人や周りの子どもの声を言葉として認識している様子や、モノやコトには意味と名前があり状況や文脈に沿って言葉を使う様子から概念が育まれているかを観察します。言語の獲得は、特に概念形成とコミュニケーションに深く結びついていることが知られ、言語というラベルを獲得することで、もともと知っていた意味に言葉がくっついて、コミュニケーションの手段を得ることができると言われています。子どもは、言葉を獲得する前から感覚的な概念形成を行っているので、たくさんの言葉かけで概念形成を促し、言葉によるラベリングをしていくことを意識します。
あきらくん
● ● ●
子どもが生活や遊びの中で数量の変化に興味を示したり、数字を使おうとする様子から概念が育まれているかを観察する領域です。数学スキルの獲得は、単なる学校教育の早期教育ではなく、遊びや生活の中で自発的に数学を探したり、活用したりすることで身につくものであることが言われています。しかし、数概念は他の概念とは違い、特に就学前の子どものうちは大人が「数量」を意識しなければ経験の機会が少なくなってしまいます。日常生活の中で、数や形に意図的に触れる環境を作ったり、気づきを促す言葉かけをしていくことを意識します。
まおちゃん
<幼稚園教育要領解説(平成30年2月)>
序章 第1節 改訂の基本的な考え方_1改訂の経緯及び基本方針_ (1) 改訂の経緯(p.1)
変化が急速で予測が困難な時代にあって,学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い,他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。
序章 第1節 改訂の基本的な考え方_1改訂の経緯及び基本方針_ (2) 幼児期の発達_③発達の特性(p.15)
○幼児期は,環境と能動的に関わることを通して,周りの物事に対処し,人々と交渉する際の基本的な枠組みとなる事柄についての概念を形成する時期である。例えば,命あるものとそうでないものの区別,生きているものとその生命の終わり,人と他の動物の区別,心の内面と表情など外側に表れたものの区別などを理解するようになる。
第4節 指導計画の作成と幼児理解に基づいた評価_3指導計画の作成上の留意事項_(2) 体験の多様性と関連性(p.102)
第四は,ある体験から幼児が何を学んだのかを理解することである。幼児の場合,学ぶとは概念的な認識のみを意味するわけではない。言語化されていない諸感覚を通して感じ取ったことも含まれる。教師がそれらの学びを読み取り,幼児がその学びを更に深めたり,発展させたりすることができるように,環境に配慮することも大切である。